…ブックマンとラビが話している間…

 …アレンはずっと…魘され続けていた…

 …最初は…ただ…荒々しい息を時々していただけだったものが…
 …時間が経つ内に…
 …より激しいものとなり…
 …更に経過すると…時々呻き声が混じる様になり…
 …そして…更にその呻きが酷くなり…

 …そうして…少しずつ…魘される様に…なっていった…

 
 
悪夢―13―


 …最初は荒い呼吸…
 「…ジジイ…仲間がこんな状態だってのに見てるだけってのはキツイさ…」
 「…だまっておれ未熟者…これも仕事の内だ…」
 …アレンの様子をただ見ていることしかできず、ぼやくラビをブックマンが叱りつける…
 「…それに…」
 「…わかってるさ…アレンの為だって言いたいんだろ…」
 「解っているのならば良い…しっかり見ておけ…」
 ブックマンの言葉を遮って言ったラビの言葉に、ブックマンが更に促す…
 アレンの様子をよく見ていろと…
 
 …次いで…声にならない…呻き…

 …そして…その次は…意味の取れない…ただの呻き声…

 …大体いつもと同じである…
 
 …最も…誰も最初から最後まで…魘される過程を観察などしていなかったのだから…この後は解らない…
 …途中でアクマを感知して目を覚ます可能性もあるが…
 …夢の内容が解る様な…何かを漏らす可能性もある…
 …魘されるアレンを見続けていれば…或いはとブックマンは言った…

 …そして…

 「……う…うぅ…あぅ…や…い…や…や…め…な……で…ぼ…く…い…た…」

 …その考えは…どうも当たりの様だった…

 「…い…た…い…な…ん…で…や…め…て…」

 …少しずつ…微かにだが…次第に…意味のある言葉を…アレンの口は紡ぎ始めた…

 「…ジジイ…アレンは…」
 …少しずつ意味が取れる様になってきた、その内容に…ラビは眉を寄せる…

 「…い…いじめ…な……で…ぼ…く…は…」

 「…いじめないで?か…」
 …ようやくまともに意味の取れたそれは…普段の明るいアレンからは考えられぬそれ…
 …だが…考えてみれば有り得ない話では無いのだ…とラビは考え…気持ちが沈む…
 「…あの腕だ…謂われのない迫害を受けておったのかもしれぬ…」
 …ブックマンは…割とすんなりとそう言った…恐らく当に予測していたのだろう…
 …その内容の…度合いは兎も角として…

 「…た…べ…も…の…」
 …その言葉に…がっくりとラビは転け掛ける…

 「…ア…アレン…なんで…夢の中でまで…悪夢はどうしたんさ?悪夢は?」
 「黙っておれ…アレンは別に食べ物の夢を見ておる訳ではなかろう…苦しそうなのは変わっておらぬ…恐らく…ろくに何も食べることが出来ぬ時期があったのだろう…」
 「…そ…それアレンにとっては地獄なんじゃないさ?」
 …それともだからこそアレンはいまあれ程までに『食』に執着するのか?
 …寄生型というだけでなく…

 「…だ…れ……え…ぼ…く…いじめ…ないの?…」
 …夢の内容が少し変わったのか…苦しげな声が…かすかに…やわらぐ…

 「…夢が悪夢じゃなくなったのさ?」
 「解らぬ…だが…危害を加えぬ者がアレンの前に現れたのだろう…」
 「…父親…かな?…」
 「…いまの時点では…なんとも言えぬ…」

 「…あの…ひと…たち…と…ちが…う……キミも…ぼくと…おなじ…な…の?」
 …微かに…安心したような…吐息が漏れる…

 「…どうやら父親とも違うようだな…」
 
 「…おんな…じ……ば…け…も…の…な…の…?…」
 …そして…笑みを浮かべる…

 「…ジジイ…アレン…いま…」
 「…化け物…そう言ったな…」
 「…どういうことさ…まさか…」
 …化け物と言う単語から彼等が真っ先に連想するのは…アクマ…
 「…しかし…アクマならアレンは殺されているだろう…なら…醜い姿の奇形児にでも出会ったのかも知れぬな…」
 「…アレンの最初の友達さ?」
 「…可能性はある…」

 「…あっ…に…げ…て…や…め…て…やめ…殺さないで!!逃げて!!殺さないで!!」
 …最後は…殆ど悲鳴となった…その叫びはあまりに痛ましく…
 
 「殺さないで!?…まさかアレンの友達殺されちゃったのか!?」
 「…そうなのかも知れぬ…だとしたら…アレンの精神的ショックはかなり大きなものだと言える…」

 「…う…う…うう…な…ん…で…」

 「…また魘され始めたのか…?…」

 「…に…ん…げ…ん……ちがう……と…く…べ…つ……か…ぞ…く…た…い…せ…つ……」

 「…家族…か…父親にでもあって…自分はちゃんと人間だって言われたのかな…」
 「…解らぬ…が…恐らくは…そうなのだろうな…」

 「……きら…い……す…き……」

 「……いや……ゆ…き…」

 「…マ…ナ……ど…し…て…」

 「…う…そ……せ……ね……う……ろ……ど……か…ぞ…く…の…あ…の…うそ…あいつら…てき…せん…ね…こ………み…か…た……ぼ…く……ころさ…な…い…まもって…くれる……言った……」

 「…ジジイ…オレの気のせいさ…?…なんか…いますっごく気になる単語が出てきたような…」
 「…掠れておってはっきりはせんが…私も少々気になったな…」
 「…偶然…さよね…いまの…呻き声が…たまたま…」

 「…ご…か…い…忘れ…ゆめ…て…き……み…か…た……か…み……に…ん…げ…ん……ま…も…る……ち…か…ら…ころされ…る……と…く…べ…つ…ア…ク…マ……こ…わ…す……き…お…く……い…ら…な…い……ゆ…め……ゆ…き……ア…レ…ン……な…ま…え……マ…ナ……か…ぞ…く……ふ…た…り…き…り……し…ろ…とけ…きえ…る…き…お…く…ひ…か…り…に……」

 「…ジジイ…今度は気のせいじゃないさ…アレン…神とかアクマとか言ってるさ…」
 「…そうだな…」
 「…だとしたら…さっきのも…気のせいじゃないさ…?…」
 「…マナ・ウォーカーが封印したアレンの記憶って…」
 …アレンは『千年伯爵』の手元に一度いたことがある…?…
 「…しかし…そうとすると…解らぬ事がいくつかある…」
 「…なにさ…?…」
 「…何故伯爵はアレンを生かして手元に置いておいたのか…そして何故イノセンスをそのままにしておいたのか…」
 「…そうさ…なんでさ…?…」
 「…伯爵やノアはイノセンスを破壊出来る…なのに何故放っておいたのか…」
 「…確かに…どうするさ…これコムイに…」
 「…いまはまだ言わぬ方が良いな…」
 …口を噤めと言い…アレンにも悟られるなと…そうブックマンはラビに釘を刺した…

                                            ―続く―