「…ア…レンく…ん…アレン…くん…起きて…アレンくん……アレン…く…ん…」
 …どこか遠くから…リナリーの声が聞こえる…微かだけど…心なしか…必死な声が…
 アレンがその声に…気が付いたのは…いつもと同じ…左目の疼きに目を覚ました時だった…
 …それと同時にいつもとは異なる奇妙な違和感を感じ…なんだろうと考え…次の瞬間ギョッとした…
 …驚いた等と言うようなものでは無い…
 …アレンは…ソレに気が付いた時…一瞬思考が止まり血の気が引いた…

 …これは…いったい…なんだ?…
 …目の前の…この光景は…
 …なんでリナリーが…こんなことになっているんだ…
 …目の前の…リナリーを壁に縫いつけている『黒いモノ』は…いったいなんだ…
 …いったい…なんなんだ…

 …ソレがなんなのか理解出来なかったのは…
 …アレンの思考が止まっていたからか…
 …それとも暗くてよく見えなかったからか…
 …アレンはすぐにはソレがなんなのかわからなかった…
 
 …しかし…違和感の正体に気付いた時…
 …それまではまるでわからなかったソレの正体に気付いて、アレンは愕然とした…

 …どうしてと…

 …何故なら…アレンがソレに気付いたと同時にそれは『いつも通り』にアレンの思うように動かせたから…

 …そう…その正体は白銀に輝くアレンの巨大化した『左手』…
 …『イノセンス』だったから… 


 
悪夢―2―


 …アレンは…リナリーをベッドに横たえると、まずすぐにブックマンを起こした、リナリーが解放された時には彼女はもう気を失っていたから…
 …アレンはブックマンを起こし自分の知り得る限りを話しリナリーを託した…

 「…どうして…どうして…」
 …アレンは俯いて自分の左腕を掴んで、ずっと…ただそれだけを呻き続けた…
 ラビとクロウリーは騒ぎを聞いて起きてきたが、今夜何があったのか詳細が分からない為、アレンの様子に不可解さは感じても、それがなにかまでは分からず、どうやらリナリーに何かあったらしいが、ブックマンが診ているらしいということで、安心しろとラビが言っても、クロウリーが宥めようとしても、まるで耳に入っていない様子だった…
 そんなアレンの様子にラビとクロウリーの二人が、すっかり困り果てていると、いつのまにか、すぐそこに相変わらずの神出鬼没さでブックマンが現れ、口を開いた…
 「アレン、リナ嬢が気が付いたぞ、おぬしに会いたがっておる」
 その途端アレンは変わらず左腕を掴んではいたが、顔を上げ、そして慌ててリナリーの休んでいるその部屋へと向かった…
 …その瞬間(とき)のアレンの表情(かお)は…いまにも泣き出しそうな…だけど泣き方が分からない…否泣いていいのか分からないと言う様な…そんな感じだった… 

                                       ―続く―