彼と初めて会ったのは草原でだった…
長い旅の果てに嵐に遭い、道を見失って、異境の地に迷い込んだ時だった…
あの時彼と出会わなければ、一族はとうに滅んでいただろう…
―碧の行く末― 〜6〜
「…族長…ここはどのあたりなのでしょうか…」
「分からん…直に偵察に出した者達が戻れば分かるのだろうが…」
…嵐に遭い…増水した河に飲み込まれかけ…暗闇の中、視界も利かぬ状態でただ皆がはぐれぬ様にと、そればかり気に掛けていたが為に、嵐が晴れた時…彼等は羌の地から外れしかも嵐の為に大切な羊の大半を失っていた…
「ここは一体どのあたりなのだろう…近くに村は無いのだろうか…」
ようやく嵐が静まったと言っても、羊と荷物の大半を失ってしまったこの状況は、彼等にとっては絶望的な物だった…
偵察に出ていたチョンは不意に遠くに何か建物らしき物がある事に気付く…
「あれは…建物…殷族が建てた関所か何かか?あそこに行けば物資を補充出来るかも知れない…でも…」
「止した方がいい…あそこに見えているのは殷族の新邑…今あそこに近付けば奴隷にされるだけだ…」
建物の方を見ながら、どうしようかと言いかけた時だった…
不意の背後からの声に振り向くと其処には自分より幼いだろう少年が立っていた。
背後からの声は確かに幼く、その声の主が子供だというのは確かに自然な事だった…
だが、少年の発した言葉が、少年の容姿とその声の幼さを裏切っていた…
チョンは正直…信じられないという思いでその少年を見つめた…
「先の嵐で羊と荷を失ったのだろう…」
少年のその言葉にチョンは目を剥く…
「君は…一体…」
チョンは呆けた様に少年を見つめる。
「あそこに見える丘を越え、二日程歩けば羌族の村がある…そこで補充は行えば良い」
少年はチョンの不審などまるで意に介さぬと言う様に不意に背後、彼がやって来たのであろう方を向いて指し示すと、先程の続きとばかりに告げて振り向き、チョンを真っ直ぐな瞳で見つめた。
「予定では後五日程はあの場所にいるそうだから、貴方が族の許に戻りこの場所に戻ってくるのにかかる時を併せても充分に間に合うだろう」
そして最後にそう言うと、少年は踵を返し、そのまま来た道を戻って行った…