第一章 胎動

 (崑崙教国)総本山・崑崙山・玉虚宮
 「時は近い……」
 重々しく白髪白髭の長い頭の老人、崑崙教主・原始天尊が云う。
 その場には、崑崙最高幹部達が集まっていた。
 「三百年振りに星振が定まろうとしておる」
 重い緊張感がその場を支配していた。
 「なんとしても邪神の復活は阻止せねばならぬ」
 不意に原始天尊は居並ぶ者たちの中に割って入り、その中の一人の少年に声をかけた。
 「太公望」
 少年は居眠りをしているようだった……
 「太公望」
 原始天尊はもう一度呼びかける。
 「なんでしょうか、原始天尊様」
 ようやく少年、太公望は答えた。
 「お主、話を聞いておったか……」
 「も、勿論であります……」
 目をそらす太公望に、原始天尊はいきなり螳螂挙を放った。
 「嘘をつくでない、全くお主はいつもいつも……(中略)……と言うわけで、お主を封神計画の祭司に任命する」
 「いやです!」
 即答だった。
 「逆らうのなら、お主は破門なのじゃが……」
 「考えさせてください……」
 そう言って、太公望は会議室から出ていった。
 (商王国)王都・朝歌・禁城
 「お久しぶりですね、妲己」
 そう言ったのは奇妙な道化の様な格好の男だった。
 「あらん、申公豹じゃないんのん」
 そう答えたのは美しい女だった。この国の王妃である彼女はしかし人間ではなかった。
 「崑崙に動きがあるようですよ、祭司に選ばれたのは原始天尊の一番弟子だそうです」
 何か気になる事でもあるのか妲己は少しだけ眉を寄せる。
 「どうかしましたか、妲己」
 申公豹が探るように問いかける。
 「なんでもないわん、報せてくれてありがとん」
 「それでは私はもう行きますから」
 申公豹の姿が見えなくなると、妲己はその部屋を出ていった。