第五章 武吉と謎の占い師―1―

 僕の名前は武吉、お母さんと一緒に羌族の村に住んでる。
 お父さんは半月前に殷の羌族狩りにあって、今は朝歌で奴隷として働いてる。
 僕たちも三日前に軍隊に襲われた……もし、あの時あの人に会わなければ今頃は……
 ―三日前―
 辛そうな、ふらふらとした足取りで村にやってきたその人は旅装束にローブを羽織った、十歳前後位の少年だった。
 最初に声をかけたのは村の薬屋さんだった。
 「随分と苦しそうだけど大丈夫かい?」
 「…旅の途中なんですけどお腹を壊したようで薬を分けて頂けないでしょうか…」
 「ああ、おやすいご用だよ、そんなの…家は薬屋なんだ…」
 「あの、この薬…苦いんでしょうか?…」
 少年が嫌そうに聞く。
 「まあねぇ、よく言うだろ、『良薬口に苦し』って……」
 「糖衣かシロップは……」
 「無いよ……」
 食い下がる少年に苦笑しながら薬屋さんが言う。
 少しの間、少年は手元の薬をジッと見て……
 「…わかりました、この薬を頂きます…」
 そう言って飲んだ……
 よっぽど苦かったのか、最初は随分、苦しそうにしていたが、少ししたら薬が効いたらしく、とても驚いて言った。
 「こんなに効くなんて…有難うございます…でも僕…実はお金が無くて…代わりと言ってはなんですがお礼をさせて頂きたいんですが…」
 少年が気まずそうに言う。
 「いいよ、困った時はお互い様だ……」
 そう言って断ろうとした薬屋さんに、少年はそういうわけにはいかないと言い、ついに薬屋さんはお礼を受けることとなった。
 少年は村の人達を、村の水場である泉に集めた。
 「僕は占い師なんですけど、じつは簡単な呪いもできるんです、だからお礼にこの泉の水を酒に変えて見せましょう」
 そう言って泉の水を酒に変えた。
 大人の男の人達は喜んで飲んだけど、ただ僕らはそれを見ていた。
 そんな僕らに少年は…『さぁさぁ年寄りも女も子供もみんな飲むがよろしい』と勧め…
 戸惑う僕らに……
 「大丈夫だ!この酒は酔いはするが毒性も依存性もなく…しかも明日になれば体の中で水に戻る」
 そう、更に勧め…その言葉に僕らみんなは酒の泉に飛び込んだ。
 そして一夜明け気が付いたら僕らは殷の人狩りに捕まっていた…
続く―