武吉と謎の占い師―2―

 ―わしは旅の占い師といった装いで草原を普通の子供の振りをして旅をしていた。
 旅に出る前に普賢から渡された十二仙の餞別のお陰で原始天尊さまの千里眼は上手く誤魔化せておったが、途中いきなり申公豹とかいう悪趣味な奴に見つかってしまった。
 まあ、あやつは崑崙からの追ってではないようだが、いきなり攻撃されたのは参ったわ、だがそれもなんとか切り抜ける事ができ、わしは旅を続けておった……
 そんな時、羌族の村を見つけた、わしは買い物をするために村を訪れ村人達から情報を集めた。
 彼等の話によると、この村は殷の羌族狩りから逃れた者たちが集まって、もっと安全な他国に向かう途中の即席の村だという事だった。
 村を出たわしは旅を続けた。
 それから十日ほどたったある日、殷の本国まで後わずかという所まで来た時だった。
 わしは殷の軍隊を見た!それを見てわしは即座に指を折って占ってみる……
 するとその軍隊は先日のあの村を襲うと出た。
 わしは直ぐに土遁を借りてあの村に向かった。
 村の少し手前で人目がないのを確認し、土遁を降りると数歩歩いた、旅の途中に偶然通りかかった風を装い、村が見え始め人がいるのを確認すると、わしはおもむろに道端に生えている雑草を抜くと、腹が減ったと騒ぎながらそれを食った―
 
 酒を飲み、酔い潰れた村人はあっさりと殷軍に捕らえられた―
 
 「おい、占い師の小僧お前のせいだぞ!!」
 「どうしてくれるんだ!!」
 「責任とれ!!」
 村人は少年を責めた。
 その騒ぎに軍隊を率いる将軍がそちらを見る。
 将軍と少年の目が合う…
 少年がニヤリと笑って…
 「うむ、責任をとろう…」
 少年らしからぬ物言いでそう言うと、鞭のような物で自分の手首を戒める縄を切り、土遁を借って崖の上へと逃れた。
 それを見た村人達は呆気にとられていたがすぐにまた、大騒ぎを始める。
 将軍はそれを見て少年が仙道だった事に気付いて歯噛みした。
 
 ―わしは一人、険しい崖の上に逃れた。
 「くぉらー殷の軍隊!!よくもわしに恥をかかせてくれたなー!!」
 わしはそう叫ぶと打神鞭で(人間に被害が出ないようにしながらも)ど派手な攻撃をした。
 するとあの将軍が半妖態を顕して向かってきた。
 やはりあやつは妖怪仙人であったか、しかも妲己の手下で、人狩りをするような奴ならば遠慮は要らぬか。
 目の前に立つ将軍を見据え……
 どうせもうこやつには正体はバレておる……
 わしはそう考え、仙気を押さえるのを止め、気を練り…
 「成程、妲己の手下には妖怪仙人が多いと聞く、わしは崑崙の道士・太公望!」
 「やってくれるな小僧!俺は陳桐いかにも妖怪仙人だ!」
 「ち……ちんとう?」
 陳桐の名を聞いて太公望はいかにも拍子抜けしたというような態度で言った。
 「はーっ予定が崩れたのう…」
 「なに?」
 太公望の言葉に陳桐が眉を顰める。
 「わしはのぅ…妲己の手下の中でも、それなりに名の知れた強い奴を倒して…妲己を怒らせて誘き出し、妲己を倒す、そうすれば、残りの雑魚は簡単に追い払え、365名も封神する必要も無くなり、わしはやっかいごとから解放される、という予定を起てておったのだ…その為にこの村で待ち伏せしておったのに…引っ掛かったのが、おぬしのような無名の小物とは…わしは雑魚を相手にしておる暇はないのだがのぅ…はぁ…また一から計画を練り直さればならぬのう…」
 「な!小物だと!小僧この俺を小物呼ばわりした挙げ句、雑魚扱いしてくれた事!後悔させてやるわぁー!」
 
 大袈裟な態度で軽く挑発してやると、陳桐はあっさりとのってきおった。炎の宝貝『火竜ヒョウ』を何の考えも無く、わしの逃げ回る方へと投げておる、己が徐々に炎に囲まれ、逃げる事が出来ぬようになっておるとも知らずに…
 
 炎に囲まれている太公望に陳桐は勝ち誇って言う。
 「終わりだな太公望!!!」
 そうして、陳桐が火竜ヒョウを投げようとしたその時…
 「ダアホめ、終わりはおぬしのほうだ」 
 太公望が静かに言ったその時、勢いを増した炎が陳桐自身を取り囲んだ!
 「炎に包まれておるのはキサマではないか!せっかくの宝貝を使いこなせておらぬ奴など敵ではないわ!!」
 「だっ…だまれっ!!焼ける前に殺してやる!!!」
 太公望の言葉に陳桐はそう言って、火竜ヒョウを、太公望目がけて投げた。
 しかし太公望は、その火竜ヒョウを打神鞭で止めた…
 「無念!このままでは死にきれん!」
 そう言って、最後の足掻きとばかりに陳桐は太公望を道連れにしようと襲いかかるが、逆に太公望の打神鞭の風により返り討ちにされた…
 
 『将軍がやられたぞ!撤退だ逃げろーっ!!』
 そう言って殷の軍勢は逃げ出した…
 
 取り残され、呆然としていた村人達が、騒ぎはじめた頃だった…
 「…何があったのですか…」
 不意に掛けられた声に、村人達は振り向くと、そこには旅の途中の賈人達がいた…
 
 「ねえ、申公豹…あのヒト、陳桐君をやっつけちゃったけど、この前の事は何だったの?」
 「呂望というのは彼の名前ですよ…羌族・呂氏の最後の頭領、そして羌太公でもあります…」
 「えっ、でも…斉の太公は60年前に殷王に殺されたんじゃなかったの?」
 「ええ、そうですよ…あの時、斉の太公は孫の誕生日を祝うという名目で羌族の邑の一つを訪れていました、その邑が商に襲われ、その時その場にいた者達は一人残らず、殺されたか捕らえられたかのどちらかだと言われています…」
 「それじゃあ、やっぱり太公望が羌太公って変じゃない?だってもう滅んじゃってるんでしょ?」
 「黒点虎、先ほど私は、『誕生日を祝うのは名目だった』と言った筈ですよ…」
 「じゃあ…何か他にあったの?」
 「太公の…いえ、羌の長老達の本当の目的は真の羌太公と羌の次期頭領となる者を守ることにあったのですよ…当人達にも知らせずにね…」
 「何…それ…全然分からないよ…」
 「つまりですね、あの時死んだ斉の国主は、実は羌族の頭領の一人ではあっても、太公ではなかったのです、羌太公というのは黒点虎が思っている以上になるのが難しいものなんですよ…そして太公望こそが、その羌太公なのです…」
 「ねぇ…所でさぁ、なんでそんな事申公豹が知ってるの?」
 「…そして太公望の目的は一族の復讐です…それも一切の犠牲の無い…」
 「…どうも、人間様のする事は分からないや…」   
 申公豹が話を逸らしたので、黒点虎は嘆息して諦めた…
                                                      ―つづく―
 ―あとがき―
 今回のメインはやはり後半の申公豹と黒点虎の会話です、武吉全然出てきませんでしたね…済みません…『武吉と謎の占い師』は次回で終わらせます…今度こそ…さて、次回はいよいよ皆様お待ちかねのあの方が登場されます。次回UP は7月になると思います、請うご期待(^_^)v―それではまた―