―取り残され、呆然としていた村人達が、騒ぎはじめた頃だった…
 「…何があったのですか…」
 不意に掛けられた声に、村人達は振り向くと、そこには旅の途中の賈人達がいた…―

 武吉と謎の占い師―3―

 
 「いえ…実は、殷の人狩りに襲われたのですが…」
 長老がそう言いかけると若い賈人は、事情を察したのだろう、大体の事は分かっていますと言い、安全な所まで同道しようと言った。

 ―取り敢えず急いでその場を離れた方が良いと言って、慌ただしく移動をはじめた…
 「…所で行き先にあてはあるのですか?」
 賈人達のまとめ役らしき先程の若い賈人は長老に問い掛ける。
 「いえ…ですが…取り敢えず、崑崙教国に向かう所でした…」
 「崑崙教国ですか…確かに、あの国まではまだ殷の勢力は届いていませんからね」
 「ええ…ですが…それが何か?」
 「いえ…実は崑崙教国に我々の主が所有する牧場があるのですが…そこには羌族の難民も多くおりますし…もし何でしたら、暫く其処に身を寄せられたらと思いまして…」
 「そうだったのですか…ですがそれではあなた方にご迷惑が掛かるのでは…」
 「いえ…その心配は要りません、実はこれは主の指示なのです」
 「え…それはどういう…」
 「詳しい事は言えませんが…主は羌族…いえ実は斉に深い関わりのある方でして…旅の途中で難儀している者達がいれば、その助力をするようにと、行く所がないようなら牧場につれて来るようにと言われているのです…あなた方に会うことが出来ればきっと主もお喜びになると思いますし…」
 どうでしょうかと言われた時…長老はある噂を思い出していた…賈人達には言わなかったが、元々その噂の確認の為に崑崙を目指していたのだ…
 「…その…あなた方の御主人のお年は…お幾つなのでしょうか…」
 長老は我ながらおかしな問いだと思いながらも聞かずにはいられなかった…
 「…主のお年は…はっきりとしたことは分かりませんが…かなりお若いようですね…」
 「…そうですか…」
 長老は落胆を隠しきれず溜息を洩らす…もしかしたらと思っていたのだ…
 「ですが、主は見かけこそお若いですが、とても賢くお優しい、素晴らしい方で…人脈も優れておりますし…とても頼りになる方なのです…」
 長老の様子に…頼りにならぬと勘違いされたと、思ったのだろう賈人は必死で取り繕おうとしている様だった…
 「いえ…実は、我々は人を捜しているのです…それでもしかしたらと思ったのですが…せっかくですから…ご厚意は受けさせて頂きますが…残念です…」
 長老は少しだけなら話してみても良いかと思い、そう言った…
 「…そうですか…それなら先程も申しましたが、主は人脈も優れております、主に相談されてみてはどうでしょう…」
 その申し出を長老は少し考えて、有り難いと、受け入れた時だった…

 「済みません…少し宜しいでしょうか?」
 そう言って、何処からともなく現れたのは実に美しい、長身に、長い蒼髪が特徴的な青年で、村の者達は、その物腰に騒然としていた。
 そんな中…武吉は、一人平気な様子で、その青年に近づいた…
 「…あの、長老は今お忙しい様なんですが…どうかしましたか?」
 慌ただしい様子に武吉は気を利かせ、青年に問い掛けたのだった。
 「いえ…人を捜しているのですが…このあたりで最近、仙道を…いえ奇妙な人物を見かけませんでしたか…姿は12・3才の少年の筈なのですが…」
 「…仙道…そうかあの人は仙道だったのか!」
 「見たのかい?」
 「あの…お知り合いなんですか?僕…あの人にもう一度会ってお礼を言いたいんです!なのに…名前も知らなくて…教えて下さい!あの人の事!」
 武吉のあまりの剣幕に青年は戸惑いながらも、それを宥めつつ問い掛ける。
 「助けて頂いたんです…殷の羌族狩りから…」
 「そう…良かったら詳しく教えて貰えないかな…その人の事…」
 そして武吉は話し始める…彼の占い師の少年が、村を訪れてからの総ての事を…
 
 「有り難う、よく分かったよ…僕は彼とは直接の面識はないからはっきりした事は言えないけど…まず間違いないと思うよ…」
 武吉の話しを聞き終わると青年はにこりと微笑み…
 「僕の探している人の名は、太公望、崑崙の道士だよ…」
 そう、付け足した…
 
 ―遠く離れた岩陰からその一部始終を見ていたモノ達がいた…
 彼等は皆、フード付きの黒衣を纏っており、その為その姿は分からない…
 「…あの者達の事はあれで良かろう…だが…」
 「崑崙は早速、追ってを出してきた様だのう…」
 「それも結構な大物だぜ…どうするつもりだ…」
 「どうもせぬよ…」
 「何だったら俺があいつを何とかしてやろうか?」
 「そなたが動くには未だ早い…其れよりもそろそろ次の行動に移ろうぞ…」
 ―そうして…彼等は、その場から姿を消した…
                          武吉と謎の占い師―終わり―
                           次回新章突入!―つづく―
 ―あとがき―
 えー、ようやく『武吉と謎の占い師』が終わりました…
 さて今回は前回予告した、あの方、そう崑崙の天才道士が出て参りました!
 最後の部分に出てこられた方々は、あの場所に結界張ってます…(済みません…こんな事は本編中に書くべき何ですけど…話しの都合上敢えて書きませんでした…でもやっぱり一応書いておいた方がいいかなあと思って…ここに書きました…)
 次回からは朝歌篇に入りますが…意外なキャラが登場します…それでは(^_^)v