贅の限りを尽くされた調度品で埋め尽くされた豪奢なその部屋は、禁城の後宮の一角に王妃の為に新たに造られた部屋だった…
彼女は、王妃の座を得て、歴代王妃の間へと通されるなり、王にしなだれかかり彼女は王の耳元へ囁いた…
「妾…こんな地味で古くさい部屋嫌ですわん…ねぇん紂王様んv妾…妾の為だけのお部屋が欲しいわんv」
彼女のこの言葉により、質素だが上品な…王妃の間の割には贅沢さに欠ける…しかしその部屋の主の王妃としての器量を伺わせる趣を持つその部屋は…これ以後閉ざされ封印される事となる…
そしていま―
紂王が妲己の為だけに造らせた新たな王妃の間で、彼女は一人の少年に婉然と微笑みかけていた…
第六章 斉の国と羌太公―1―
「崑崙に封神計画の反対派がいるそうですね」
羌族の村での聞き込みを終え、朝歌に向かおうとして哮天犬を呼び出した楊ゼンに不意に頭上からそう話し掛けた者がいた…
楊ゼンが振り向くと、そこには額に黒点を持つ虎―黒点虎と呼ばれる霊獣に乗った道化の様な姿をした道士―申公豹がいた…
「初めまして、あなたが崑崙の天才道士・楊ゼンですね。私は申公豹といいます」
「あなたが、最強の道士・申公豹…それで僕に何のご用ですか」
「あなたは原始天尊の一番弟子・太公望を捜しているのでしょう」
「そうですがそれが何か?居場所を知っているのですか」
「さぁ…どうでしょうね…」
「知らないのなら僕はあなたには用はありません…それでは先を急ぐので…」
そう言ってその場を立ち去ろうとした、楊ゼンを申公豹は慌てて呼び止めた…
「先日…面白い人物に会いました…呂望と名乗る占い師の少年です…」
「占い師?原始天尊様の千里眼も無効化している相手を捜すのに、一介の占い師を頼れとでも言うつもりですか」
「違いますよ、楊ゼン。重要なのは彼が占い師だという事ではありません…彼の名前の方です」
「名前ですか?」
「…斉の国の国主…羌太公の事をあなたはどれだけ知っていますか?」
占い師の名前の事を問うたのに申公豹はそれとは別の事柄に触れた…
楊ゼンには、そう思えた…
しかし直ぐに思い直す…
話しを持ち出したのは(どちらの場合も)申公豹の方なのだと…
それならば何らかの関連があるのではと考え、かって師から他国の事も知っておいた方が良いだろうと、聞かされた時の事を、斉と羌族の話しの時の事を思い出し…
そして楊ゼンはある事に気が付いた…
「申公豹…その人物は本当に呂望というのですか?」
「気が付いた様ですね…そうです…あなたが考えている通り…彼は羌族・呂氏の直系です…」
「有り得ない…直系はもういない筈だ…生き残っていれば殷が見逃す筈が無いし…それに…現に斉は滅んで…」
「それでは…斉が滅んでいなければ?」
「それこそ有り得ない…」
「有り得ないと何故言い切れるのですか?どうして滅んだと言い切れるのですか?楊ゼン、あなたは斉―いえ羌の邑とはどの様なものか本当に解っているのですか?」
「それは…」
楊ゼンは申公豹の言葉に奇妙な感覚を覚え口ごもった…
「楊ゼン…羌族の事は羌族にしか解らないのですよ…」
何故、いまそんな事を申公豹は言うのかと疑問に思う、そして話しが逸れているのでは無いかと問う…
「逸れてなどいませんよ…何故なら封神計画反対派の首謀者とは、60年前に姿を消した筈の羌太公だからです、そして彼の幼名が呂望なのですよ…」
「封神計画は崑崙のトップシークレットの筈だ…それを何故羌太公が…」
「さぁ?とにかくその羌太公と同じ名を名乗る少年が、いま朝歌で占い師として評判になっているという事だけは確かですね…それでは楊ゼン…私はもう行きますので…」
そう言って申公豹は話したいだけ話し…一方的に中途半端な情報と混乱を楊ゼンに与え去って行った…
―あとがき―
皆様済みませんm(_ _)m
ようやく連載再開…なのに今回は太公望は出てきませんでした…
次回こそは謎の占い師(笑)の登場となると思います…