「……もし宜しければ…少しお茶でもどうですか…?…」
 踵を返し立ち去ろうとした『アレン・ウォーカー』に我輩はそう声を掛けた。

 …『ノア』かも知れない。

 …その可能性があるのならと思い…『それ』を確かめる為に…


 
―羊が抱えるパラドックス―
              ―4―
 


 ……僕は…何をやってるんだろう…

 「さ、どうぞ、ここのケーキは美味しいと評判ですよ?」
 目の前には…その言葉の通り美味しそうなケーキとアイスティー…

 ―そして…

 …テーブルの上のケーキと飲み物からチラリと僕は視線を動かし、その科白を言った人物…つまり僕がぶつかってしまった紳士を見る。

 穏やかに笑う紳士に、僕は「はあ」と生返事を返すと、喉が乾いていたこともあって飲み物に手を伸ばす。
 そしてストローに口を付けてよく冷えたアイスティーを口に含み、一口飲む。
 
 …ああ…冷たくて美味しいな…
 飲み物を飲んで、カラカラに乾いていた喉が潤されると、今度はグゥと大きな音を発ててお腹がなる。
 …な…なにもこんな時に…
 初対面の…と言うか通りすがりの知らないヒトの前で…僕はさっきから恥ばかり晒してる…その事実に僕の顔が赤くなる。

 「…おや?…お腹…空いてるようならケーキより食事の方が良かったでしょうかね?ここを出てレストランにでも行きますか?」
 「いっ…いいえっ…!…ここで十分ですっ!」
 僕のお腹の音を聴いてクスッと笑って言った紳士の言葉に、僕は大慌てで首を左右に振ってそう答えると…
 「ケッ…ケーキっ!頂きますねっ!」
 そう言って目の前のケーキを食べるべくフォークに手を伸ばした。

                                       ―続く―