運ばれてきた飲み物とケーキに我輩は『ある薬』を混ぜた。

 …『その薬』は…かって『ある目的』の為に…その一度の為だけに造りだしたモノだった。
 …だから…もう二度と使うことはないと…そう思いつつ…『ある時』から…常に持ち歩くようになった…

 …そう…不完全に覚醒しかけていた『14番目』に『暗示』を掛け、そして『覚醒』させる為に使った…その為に造り出した『薬』…

 …『14番目』に裏切られてから…それでも『彼』を偲んで持ち歩いていた『薬』…

 …『その薬』を混乱していた『アレン』の隙を伺い、彼の下へと運ばれたそのケーキと飲み物へと混ぜ…そして『薬』が混入されたケーキと飲み物を口にする『アレン』の様子を彼には悟られぬように観察し…

 「…あ…美味しい…」
 一口口にして目を見開いて呟いた『アレン』の口から零れた『その言葉』に…
 「…しんじ…られない…こんなに美味しいの…初めて…」
 我輩は確信した。

 …『アレン』は…何故か『14番目』同様…不完全ではあるけれど『覚醒』し始めているのだと…

 ―何故なら『薬』自体は『無味無臭』だが…『ノア』の『体内』に入ると『薬』と『遺伝子』が『反応』しあい『ノア』にとっては『これ以上無い美味』なモノに感じられるように造られているから…

 
 
―羊が抱えるパラドックス―
              ―6―
 


 『お腹が鳴ったこと』『泣いてしまったこと』…色々気恥ずかしくて誤魔化すように慌てて食べたケーキだった。

 ―だけど…
 「…しんじ…られない…こんなに美味しいの…初めて…」 
 …一口口にして…そんなこと忘れた。
 
 …どうでも良くなった。そして僕は『いつもと同じ』否『それ以上』に『夢中』で食べた。

 ―そして…
 「…よっぽどお腹が空いてたんですね」
 アッと言う間に空っぽになったお皿を見てフフと頬笑ましそうに優しく紳士が笑い…
 「お代わり頼みましょうか?」
 どこか嬉しそうに笑って彼はそう言った。

                                       ―続く―