「アレンお帰り!楽しそうだね!」
 たくさんの荷物を抱えご機嫌で歩くアレンに、そう声を掛けたのは、麦わら帽子にオーバーオールを着た大きな体の大男だった…
 「あっ!バーバ!ただいま!これ見て下さい!」
 アレンは男…バーバの声に…荷物に気を遣いながら…声のした方を見て…
 …そしてバーバの姿を見つけて、アレンは小走りでバーバのもとまで行き、荷物をバーバによく見える様に掲げた…
 「アレンいっぱい食べ物買ったんだね、でもこんなに買って大丈夫なの?」
 アレンが掲げた荷物…その中には…リンゴやパン…クラッカーにワッフル…その他諸々お菓子類…と言った…食料品がどっさりと入っていた…
 「お金のことなら大丈夫です、今日はチョット臨時収入があって…それに…これ結構おまけして貰ってるんですよ」
 そう言ってアレンはとても嬉しそうに笑った…
 

 
家出少年の事情―2―


 「ただいま帰りましたマザー、どこかに出掛けるんですか?」
 バーバと別れて教会へと向かう道の途中…と言うか…もう教会はすぐそこに見えているのだが…でアレンは杖をついた小柄な老婆に出会った…
 …異様な迫力を持つこの老婆は…アレンの師であるクロスのパトロンでサポーターの一人だ…
 …クロスの拠点の一つであるこの教会を、クロスの留守にはこのマザーが守っているらしい…
 「ああ、お帰りアレン、ちょっと散歩さ…にしてもアレン…あんたこれどうしたんだい?バイトに行ったとはいえあんた余分な金なんか無かった筈だよねぇ…それにちょっと帰ってくるの早いんじゃないかい?」
 …言外に一体何をしでかしたんだい?とそう問うてくる…だが…マザーの目はそれとは裏腹に…何か確信を持っている様な様子だ…
 …否…確信しているのだろう…クロスの借金の事もアレンの経済状況も…そしてアレンのカードの腕についても知り尽くしている、この老婆は…きっと…今日のバイト先である酒場でアレンがおこしたであろう騒ぎも大凡見当がついているのだろう…
 「………え…えーと…」
 視線が宙を彷徨う…無駄だと解っていても…つい…誤魔化せないかと思ってしまうのだ…
 「誤魔化そうとするんじゃないよ!で?なにをしでかしたんだい?」
 杖を突き付けられて、鋭い眼光で睨み据えられ、アレンはびくりとする…
 …ぎ…疑問系なのに疑問系に聞こえないんですけど…マザー…
 …そう思いながら…
 「…えっと…お店にガラの悪いお客さんが来て…それで…騒ぎになる前に帰ってもらおうと…」
 …思ったんですけど…そう言いかけて…マザーに遮られる…
 「…それで逆に騒ぎを大きくしてきたのかい?フン!子供が賢しげに浅知恵使おうとするからそうなるんだよっ!まったく今後はもうちょっと考えるんだね!」
 …そう言い捨ててマザーはすたすたと歩いていった…
 「解りました、以後気を付けます」
 そう言ってアレンは立ち去るマザーの背に一礼し…
 「行ってらっしゃいマザー!あっ!それと師匠いますか?」
 そしてマザーに行ってらっしゃいと言い、必ずいるとは限らない師の在宅を聞いた。
 「クロスなら二階にいるよ、酒を飲んでいたからそれを持っていったら食われちまうかも知れないねぇ」
 振り返ってそう言うとマザーは笑いながら去っていった…
 …アレンは…そのマザーの言葉にかなりの危機感を感じ…この食料は隠してこようと考えて…そのまま教会には入らず…教会の裏手に向かった…

                                            ―続く―