全ては7時間前……昨日の18時のこと。
「……何でここに来ようと思ったんだろう?」
方舟の一室。白いピアノのある部屋に、アレンは来ていた。
「……はぁ」
「どしたんさ?アレン」
後ろからかかる声……
振り向くと扉のところに寄りかかるようにしてラビが立っていた。
「ラビ…いたんですか?相変わらず、神出鬼没というか……なんというか……」
「アレンが油断しすぎなんじゃないさ?」
「……そうかもしれませんね…………何でここに来たんでしょう…」
「そんなの知らないさぁ」
「何だか無意識のうちに来てたんですけど……帰りましょうか」
「そうだな」
「それは、困りますネェ」
ピアノに背を向けたアレンの口を布で押さえ、立っていたのは伯爵。
「なっ……千年…伯爵…!?」
「こんばんは。ブックマンJr.…本当に、油断しすぎデス。アレン・ウォーカー」
アレンに既に意識はないらしい。力の入っていない身体を伯爵は愛しそうに見詰め、壊れやすいものを持つように慎重に、大切に担いだ。
「……薬か……アレンをどうする気さ?」
「貴方には関係ありませんネ。仮にも貴方はブックマンJr.。ならばそれらしく傍観者として全てを見ているべきではありませんカ?」
伯爵はそう言う。ラビも返す言葉がない。
「……」
「デハ、失礼」
伯爵はラビに背を向け黒い方舟のゲートに入っていった。