直線上に配置


 ―悪夢の王の欠片 世界(そら)のいましめより解き放たれし存在(もの)
  闇より暗き 夜より深き 金色の闇の王より混沌の海より分かたれしたゆたいし存在(もの)
  闇と光とその狭間にして 黄昏より昏き力導きし 暁よりも眩き力持ちし者の力受けし
  遙かなる混沌より導かれし力を掲げ 虚無の欠片を胸に抱きて 闇の欠片を内に得て 
  虚無の力を導きし時 覚醒(めざめ)の瞬間(とき)は訪れん―


 
虚無の欠片 ―3―


 目の前には楽しそうに話している二人の少女…とても微笑ましい光景で…
 だが…それにもすぐに邪魔が入った!
 後方で私の旅の邪魔をしてきた盗賊達がなにやら騒いでいる。
 どうやら自分たちがまるで相手にされていないこの状況が気に食わない様だが、そんな事は関係ない、彼らは邪魔者以外の何者でもないのだから…
 そして…遂に彼女も彼らを邪魔だと判断されたのでしょう…彼女はひとまず会話を中断し盗賊達を不愉快そうに振り向かれました…

 不機嫌そうに言った少女の様子にあたしは少し驚いた…
 普通に考えれば…盗賊に襲われて機嫌の良い人間というのもそうそういないだろうし盗賊に対し好意的な態度をとる人間というのもそういないだろう、だが彼女の場合今の今まで別に機嫌が悪いというような様子は見られなかった、勿論好意もない、正に『どうでもいい』という態度だった筈なのだ(あたしははっきり言って『人を観る眼』には自信がある!)その彼女が…盗賊達があたし達の会話を中断させた途端に不機嫌な様子を見せたからだ。
 …尤も…もしかしたら…彼女はどうでも良かったのではなく…突然盗賊に襲われあまりの事にどうして良いか分からず途方に暮れていて、あたし達が来て時間が経つうちに状況を理解し、盗賊達の理不尽な言動の為に不機嫌になったのかもしれない…
 どちらにしても…あまり旅慣れていない人間のとる態度ではないが…
 …一体この少女は何者なのだろうか?……
 …まっ!それはともかく…取り敢えず…こいつら何とかしましょうか…
 「それじゃあアメリア、取り敢えずこいつら片付けてからちょっと待ってて!」
 「え?リナ?わたしも戦います!!」
 アメリアが言う…が、この程度なら呪文一発放てば充分だし…何より既にアレンジ版の『ファイアーボール』を放っている…はっきり言って後は炸裂させるだけなのだ…
 だからあたしはアメリアに構わず手を前方に伸ばし…
 「ブレイク!」
 指をパチンとならし火球を炸裂させ盗賊達を吹き飛ばした。
 「…リナ…あれ…ファイアーボールよね…わたしの気のせいかもしれないけど…なんだか威力が前より強くなってない?」
 アメリアが唖然とした様子で聞いてくる、久し振りだから気のせいかもしれないけれど…などと小声で呟きながら。
 「気のせいじゃないわよ…実際魔力は以前より強くなってるの…だからわざわざアレンジして威力を押さえたのよ…」
 憮然としてあたしは言う…あの一件以来あたしの魔力は以前以上に増しているのだ…手加減をしアレンジを加え威力を拡散させて尚この威力…盗賊達は黒焦げ(ハッキリ言って辛うじて生きていると言った状態)なのだ!
 「…リナの魔力が!?それって!?」
 「まあ…その話はまた後にしましょう…それより!取り敢えずあいつらからお宝没収してvそれからアジトの場所を聞き出すのが先よ!!」
 そう言って盗賊達の方に向かおうとしたその時だった…
 「あっ!あのっ!…」
 その声にそちらを見やれば、そこには…盗賊達に襲われていたあの少女が深刻そうな、何かを決意した様な、複雑な表情であたしを見ていた…
 「…何?」
 油断なく向き直る…あたしはずっと彼女が何者なのか気になっていたからだ…彼女があたしに対する魔族の刺客で無いという保証がないから…
 「リナ?」
 アメリアがそんなあたしの態度に僅かに首を傾げる。
 彼女は丁寧に一礼しそれから口を開く…
 「…まずはお礼から…助けて頂いて有り難うございます、私はセレーネと申します」
 そしてアメリアの方をちらりと見て続ける…
 「彼女は貴女の事を『リナ』と呼んでいましたが、もしや貴女は『デモン・スレイヤー』『リナ=インバース』様では?」
 「ねぇ…リナ?何その『デモン・スレイヤー』って?」
 アメリアがキョトンとした様子で聞いてくる。
 「…う…後で…ね…」
 そんなアメリアにあたしはどう言って良いのかいまいち判らず…困ったように(実際困ったのだが…)言って、返答を先送りにし…
 そして彼女に視線を戻し…
 「どうしてあなたがそれを知っているの!?」
 …『デモン・スレイヤー』…あの事件の後…とあるエルフがあたし達の事をそう呼んだ…
 でも…その事を知っているのはあの事件に関わった当事者のみ!つまり…あたしとあたしの旅の連れ・ガウリイ(憶えてるかどうかは怪しいものだが…)に黄金竜の長老・ミルガズィアさん、そしてミルガズィアさんの旅の連れで、あたしとガウリイの事を『デモン・スレイヤーズ』と呼んだ張本人!エルフ族のメフィーだけの筈…メフィーが言いふらしたりしていなければ…だが…
 それならまだ良い(ホントは良くない)が…あたしが懸念しているのはもう一つの可能性!!
 すなわち魔族!
 あいつらなら気配を消して、精神世界から盗み聞きでも何でも簡単に出来るだろう…
 特にゼロス!あの事件の時、あたし達の様子を面白がって覗いていたあいつなら、事件が終わってからも覗いていてもおかしくないし、面白がって『あの事』を獣王に報告していてもおかしくない!!
 そして…目の前の彼女は…とてもただの人間には見えなかった(いや…現在のあたしだから判るんだけど…)
 まあ…もしかしたら…ゼフィーリア…特に…あたしの郷里の辺りにだったらこんな感じを受ける人もいるかもしれないけど…
 …でもゼフィーリアの住人だったら…わざわざあたしにこんな風に話しかけてくる筈ないし…
 などと色々考えあぐねていると…
 「ある人から聞きました…そういう噂があると…」
 不意に彼女がそう言った…少し困った様に…
 「噂…ねぇ…アメリア知ってた?」
 アメリアの方を見る…
 「いえ!知りません!聞いた事無いです!だからさっき聞いたんですし」
 「そうよね〜……」
 …だとしたらやっぱりメフィーが誰かに言ったのを偶然聞いたのかしら…にしてもねぇ…あれからそんなに経ってないし…
 …それに大抵こういう場合、あたしの名前を聞いて出てくる科白って…『あのリナ=インバースか』って言うんだけど…(腹立つけど…)
 「…現在はそれだけしか言えません…申し訳ありませんが…」
 また考えに沈んでるあたしに対し…彼女は穏やかにそして心底申し訳ないといった様子でそう言った…
 そんな彼女の様子にあたしは何故かそれ以上追求出来なくなる…
 「まあ…今更違うって言っても仕方ないしね…」
 小さく嘆息して言う…少し前までは違うと言ってやろうかと思っていたのだが…無意味なので結局止めた…まあ…正直そんな気ではなくなっていたと言う方が正しいのだが…
 どうもこの彼女…何処か懐かしい様な印象があるのだ…何処かで会った事がある様な…誰かに似ている様な…そんな感じがするのだ…(まあ…会った事はないだろうが…)
 そんな風に考えながらあたしは彼女に問いかける。
 「それで、あたしに何の様?」
 「リナ様に私の…導師になって頂きたいんです…」
 彼女は真剣な面もちでそう言った。
                                      ―続く―
 ―あとがき―
 あう…ホントは今回アメリアが神託の事についてリナに話す筈だったのに…
 途中で話し脱線して予定より長くなってしまいましたので…キリの良さそうな所で途中で話しを切りました…
 アメリアがなんでここにいるのかについては多分五話目以降の話になると思います…
 それと…えーと…よーやくオリキャラの名前が出てきました…まだまだ謎の人ですが…
 そして次回予告!今回脱線の原因となった『謎』の方がいよいよ出てこられます!
 彼の予定より早い登場の為にこの話は本来のペースが大分崩れてしまいましたが…(でもRINは彼好きなんですよね〜♪)
 あっ!それと前回に予告した神託の事ですが…今回の冒頭にあるのが神託の内容です…
 では次回分の残り…なるべく早く書き上げますので…
 ―それではまた―RIN―    


                                   

直線上に配置