「…『私』は…逃げ出したのです…その『使命』から…耐えられなくなって…あまりに辛くて…『2人』で一緒に担っていた筈の『使命』だったのに…『私』は耐えられなくて…『彼』を…『兄さん』を『独り』おいて…『独り』で逃げ出したのです…」
 『アレン』そっくりの『姿』をした『千年伯爵』は両手で顔を覆い泣きながらそう言う。
 『………………』

 ―暫し沈黙がその場を支配する…
 泣き出してしまった『千年伯爵』に…その場にいる『誰』も『何も』言えなかったから…
 

 
―『ノア』の『望み』―
              ―20―
  


 「……『使命』って…」
 暫く経って…誰よりも早く立ち直りそう問うたのはやはりロードだった…
 一同の中で『誰』よりも『事情』に精通していた為に、『知らなかった事実(こと)』を聞いて最初は戸惑い困惑したが…それでもやはり『最初』にその『混乱』から立ち直れたのはロードだった。
 「…『人間』に混じり…『人間』を『監視』し…時には守り導き…そして『神』の『意志』を伝える…『神』と『人間(ヒト)』と『総ての人ならざる存在(モノ)達』の『峡間(あいだ)』に立ってその『架け橋』となり『世界』を守る。…それが『私達』の…『ノア』の…『真の使命』でした…」
 …その『説明』は前に行われた『モノ』と少し異なっていた。
 …但しだからと言って『最初』にされた『それ』が『嘘』だった訳でも…そしてたったいま為された『説明(それ)』が『嘘』と言うわけでもない。『どちら』も『本当』だ。
 …ただ…『私』がより『正確』な『説明』を避けただけだった…
 「…『私』はその『使命』を『放棄』しました…より正確には…『人間』を『守り導く』と言う『使命』を…」
 「…でも…それは『人間』が『裏切った』から…だから見限ったってことでしょ…?…」
 『私』の言葉に…ロードがそう言い…
 「…何が違うの…?…」
 そう首を傾げる…
 「…ええ…『私』は…『もう人間』は駄目だと思いました。…そして『この世界』もまた…『人間』に汚され尽くしていると…だから一度『終わらせて』そして『遣り直そう』と…『彼』に告げました。…ですが『彼』は『そんなことはない』と言って…『話しを聞いてくれる人間もいるんだから』とそう言い…だからまだ諦めないと言って…結果…『私』は…『彼』と分かり合うことを諦めました。…諦めて…『私』と『彼』は袂を分かちました…いえ…」
 そこまで話して『私』は首を左右に振り…
 …『話し合い』は気が付いたら『言い争い』に変わっていて…それに『私』は疲れて…悲しそうな表情(かお)をする『彼』を…『アルファ』を見ていたくなくて…だから……
 「……一方的に『私』が逃げ出したのです…『彼』との『話し合い』から…『分かり合う』ことから…」
 …そう『使命』からと言うよりも…『私』は『あの時』…『彼』から『逃げ出した』…
 胸中で呟いて『私』は話しを続ける…
 「…だけど…」
 そう言いおいて…
 「…その時…まだ『私』は楽観していました…すぐに『彼』も気付くと…ですが……」
 …………ですが…
 心の中で…もう一度呟いて…
 「…『彼』は『人間』を諦めず。むしろ『守る為』に…『私』がその『使命』を『放棄』した分も『独り』で背負おうとして…『力』を『限界』まで使って…その為に…より『人間』に近付き…『存在』を『変質』させてしまったのです…」
 『私』はそう告げた。 

                                       ―続く―