「……彼は…行き倒れていたんです…初めは…死んでるのかと思いました…それくらい酷い状態で…すごく衰弱してて…どうしてこんな状態で生きていられるのか…不思議なくらいでした…」
ポツリポツリと『その時』の事を話す少女の瞳は切なげに揺れていた…
「……でも…彼は生きていて…驚いて私達は慌てて彼を村に連れて帰って…そして看病して…けれど…彼は何日も目覚めなくて…そのまま死んでしまうのかと…そうみんな心配して…どんどん日が過ぎて…けれど…ある日…彼は目を覚まして…でも…でも…」
『でも』…その呟きがどんどん微かなモノへと変わり…少女は涙を流す…
…少女の涙に…『私』は困惑する。
『アルファ』と別れた『あの日』から…『私』は『人間』ともずっとまともに接触してはいなかった。だから…こんな時どんな風にしたらいいのかも解らなくて…
…けれどこの少女は…どうも『アルファ』を想って…『彼』の為に泣いているのだと…それは解った…そして『彼女』が『彼』を助けて、ずっと看病もしてくれた。そのことを思うと…『何か』を『言いたい』と『何か』をしたいと思った…
…『人間』に対して…どれ程ぶりにか…『私』はそう思った…
…けれど『私』は…『本当』に久し振り過ぎて…『自分』のその『感情』の『名前』さえ解らず…そうして困り果てていると…
カサリと草を踏む音がし振り向くと…
「……『アルファ』…」
其処に『アルファ』が立っていて、にこりと穏やかに微笑んでいた。
―『ノア』の『望み』―
―23―
「……『オ』…『メ』…『ガ』…」
微笑んで『アルファ』は『私』の名を呼びそしてゆっくりと『私』の背にその腕を回した。
「…アエ…タ…ウ…レ…シ…イ…モウ…イチ…ド…『ニ』…『ン』…『ゲ』…『ン』…マモッ…テ…」
つとつとと…辿々しく…カタコトで『彼』が呟くのは『私達の言葉』…
『アルファ』の『言葉』…背へと回された『彼』の腕…触れたその場所から…そしてなにより『魂』から伝わってくる…『彼』の『歓喜』…そして……
―…離れていた間に…『彼』の身に起こった数多の出来事…
―続く―