プロローグ―1―

 ―彼は自身の知り得る歴史を紐解いていた―
 初めに混沌あり、混沌分かれて太古が始まる。
 太古は時空であり、時空は宇宙であり、宇宙は無極で、無極は太極である。
 太極は陰陽であり、陰陽は四象を象り、四象は虚実と清濁を顕す。
 虚と清から天が開け、実と濁から地が固まる。
 虚々実々、清々濁々からついに人間が生まれた。
 そして人間の世界に賢人が現れる。
 世界は天に天界・仙界、地に人間界とがあり…神話の時代の始まりである。
 三皇五帝の時代を経て、徐々に社会が形成され、民は増えて物は豊かになる。
 そして歴史に王朝が登場する。
 最初の王朝を「夏」といった。禹王が治水に成功して開いた王朝である。
 四百年の太平の後、最後の桀王と有施氏の娘の妹喜が暴虐を働き、殷の成湯に討たれる。
 この成湯が開いた殷の王朝を「商」という。
 B.C.1155年 ―人間界の時代は殷―第28代目の帝・太丁の治世―この時代、支配者の殷族は貢ぎ物を収め恭順を示さぬ他民族を家畜同然に思っていた。
 ―彼にとって重要なのはここからだった―
 この年、殷の西方の羌族の邑にて後に太公望・姜子牙とよばれる人物が誕生する。
 彼は幼き頃は呂望と呼ばれた、本姓は姜、諱は尚といい、子は「公子」(王子・太子)であり、牙は「牙城」から取られた「大将」という意をもつ字であり、『姜子牙』という名そのものが一種の尊称だった。
 彼は謎に包まれた、伝説的な人物であるが、史記にその名を記される実在の人物である。
 ―しかし、彼にとっては些細な事だった―
 天帝より分かたれし魂魄、幾度かの転生の後に下凡し365の魂魄を封神する。
 詳しいことは彼のみが知る事だが、ある神話を基に書かれた、小説のエピソードが、しかし著者がある誤解の基にこの小説を書いたが為に、この小説が故に他の者にその事を知られずにすんだことは、今となっては、彼にとって幸運であったと言えた。
 なぜなら、歴史の道標は彼の存在を知らず……彼女はその歴史を望みながら、しかし表面的なことしか知らず、彼はそれを知り、策を練っていたのだから……
 ―羌族と殷族の間では度々、戦があった―
 これらの戦の中で一人の赤子が死んだ。
 その赤子は、史実の上では決して死んではならない人物だった。
 ―彼女の知るかっての歴史に於いては―
 しかし彼にとってはこれは必然の一つ……
 彼女がこの人物、姜子牙について知っている事と言えば、かっての歴史に於いての史実に記されし事柄と天数の執行代理人としての仙界での記録位だろう。
 しかし彼はそれ以外の事も知っていた。
 彼の知り得る歴史に於いて、今度の歴史のこの時代が、最も計画を実行に移すのに都合の良い時だった。
 ―そしてその赤子の前に白髪白鬚の老人が現れる―
 赤子は息を吹き返す、老人の姿はすでになく、その瞳はまだ開かれない。
 ―眠りに就きし太上老君の夢に少年が一人現れる―
 〈…王奕…〉
 〈太上老君よ、私はこれより深き眠りに就く〉
 〈…この計画に意味はあるの?未来は決まっているのに…〉
 〈私は未来のことにまで責任は持たぬし、未来を救おうとも思わぬ〉
 王奕はそう言い残して、姿を消し、太上老君一人が残る。
 〈…結局あなたは答えをくれないんだね…〉
 太上老君はそう呟いて、更なる眠りに就いた。
                             ―つづく―
 ―あとがき―
 これは(太公望=王天君=王奕=伏羲)という図式が分かってすぐに書いた物何ですが、これに出てくるとある小説というのは、分かる方には分かってしまうと思いますがネタバレになるので今は、詳しくは書けません(と言うか詳しくは知りません読んだことがないので…探しても手に入らなかったんです…いつかは読みますけど…そういう訳で参考資料は別にあります…)
 蛇足―「」について―
 『』=ハモリ 《》=思念(テレパシー?) ()=思考 〈〉=夢の中