「……あの…僕は……」
 暫しの沈黙の後に…彼はポツリと微かな声で呟きかけて口ごもる…
 …口ごもり再び黙ってしまった彼はやはり震えていたが…けれど彼は私を抱き締めるその手を不意に放した。

 …あっ…!…
 唐突に放された彼の手…その手は見掛けより力があり、そしてその反面温かくて優しくて…触れた『温もり』とそして『それ』が遠退いた事により…私は…アクマらしからぬ奇妙な感覚を感じた…

 ―…その『感覚』の『名』をなんと言うのか…この時の私はまだ知らない……
 

 
ラーズグリーズの出会い
              ―7―
  


 「……済みません…」
 彼が私の手を放し、それから少しして…半歩ほど後退し、私から離れるとそう呟いた。

 『…………』
 ―沈黙が落ちる…

 …彼は俯き…そしてその目は包帯に覆われ隠されていたが…何となくだけど…彼が気落ちしている様だと言うことは解った。

 …そう…何故か…本当になんとなく……
 
 「……あの…気にしないで…」
 私は出来る限り『優しい声』とやらで話し掛ける。

 …何故…『人間』の『感情』なんてものを察する事が出来たのか…

 「…無理を…しなくていいの…」
 彼を『安心』させるべく…
 
 …否それより…

 「…こわいんでしょう…?…」
 『相手』が見えてないのに…それでも微笑みさえ浮かべて…

 …どうして…『人間』を『エクソシスト(敵)』を『安心』させようと…

 「…無理ないわよ…目が見えないだけじゃなくて…なにも憶えてないんだもの…」
 私はそう言って…そして今度は私からゆっくりと彼に近付き優しく抱き締めた…

 …『安心』させたいと…そんなこと…思ったのか…

 ―自分自身の気持ちさえ…まるで解らぬまま…何故かそうしていた…

                                       ―続く―