「……アレン…ウォー…カー…?…」
 戸惑った様に彼は『その名』を口にし…
 「…それが…僕の名前なんですか…?…」
 そしてそう問うた。

 …そんな彼の様子に実感が湧かないのかも知れないと思い…その事に無理もないと思った。

 …だって彼は記憶が無いのだからと…

 「…ええ…あなたが着ていたコートのボタンの裏に…そう刻まれていたの…」
 そしてそんな彼に私は頷いてそう告げると…
 「…あなたの着てた服の釦なんですもの…きっとあなたの『名前』よ…」
 にっこりと穏やかに微笑みそう伝えた。
 

 
ラーズグリーズの出会い
              ―9―
 


 「…『アレン』…『アレン』…『アレン・ウォーカー』…」
 彼…『アレン』は幾度か小声で『その名』を暫し呟いていた。
 しかし幾度か呟いた後…彼はにこりと微笑んだ。

 ―…包帯越しで目元は解らなかったが…口元が笑みを刻んでいた…柔らかい笑みを…

 「…それじゃあ…あなたの名前は?」
 そして彼は…何故かそう問うた…

 「……え?…」
 …問われて…最初(はじめ)…私は…その『意味』が…解らなかった。

 ―…だって…『名前』なんて聞かれた事なかったから…

 「…名前です…あなたの…あの…それとも教えては頂けないのでしょうか…?…」
 そう言った彼は…とても哀しそうだった…

 …そうして…もう一度問われて私は『理解』した。
 …『問い』の内容と…そして…何故かは解らないけれど…『彼が哀しんでいる』と言うことを…

 「…私…私はアニス…『アニス』と言うの…」
 そして私は戸惑いつつも『その名』を告げた。

                                       ―続く―