「スープー、済まぬがおぬしちと使いに出てはくれぬか?」
 主のその言葉に頷き、四不象は一路東海は逢の邑を目指していた…
 しかし東海に着き『逢尊さん』という人物を捜そうとしたその時…
 「やっと東海に着いたっス!さあ後は逢の邑に行って逢尊さんを捜すだけっス!」
 そう言って暫し…
 「………!!!」
 「ど…どうしようっス…」
 四不象がいるのは東海の上空…
 眼下には、その目に映る範囲内だけで…実は結構たくさんの邑が在った…
 「…これじゃあ…どれが逢の邑か判らないっス…」
 四不象は途方に暮れて涙を流した…


 
ラプラス―4―


 「お父さん…未だ…帰ってこないのかなぁ…」
 少年は、数頭の羊と共に草原に立ち尽くしていた…
 少年はいつも午近い時間になると羊を連れて草原を歩いた…
 別に放牧の為というわけではない…少年の邑は遊牧の邑ではないからだ…
 しかし…少年の家は羌と全くの無縁という訳ではなかった…
 誰にも内緒なのだと…家族だけの秘密なのだと…祖父母や母に言い含められている真実(こと)があった…
 それは…誰かに知られてしまえば、即、彼の一家も一族も一人残らず、殷によって捕らえられる事になるであろう程に重要な秘密だった…

 ―ねぇ…お母様…どうして僕にはお父様がいないの?―
 幼い少年は泣きそうな声で、母親にそう問い掛けた…
 ―…それは…―
 母親は悲しげに言い淀む…果たしてこの幼い子に真実を告げて良いだろうかと…
 ―嘘だよね…町の皆が言ってる事なんて…嘘だよね!!―
 涙ながらのその言葉に母親は悟る…
 …この子は知っているのだ…町の噂を…
 …意図的にばら撒かれたあの噂…
 …あの噂の為にこの子は傷つけられたのだ…謂われのない悪意をぶつけられて…
 …母として何とかしてやりたいと思った…だが…噂は撤回する訳にはいかないのだ…
 …この子に真実を語る訳にはいかないのだ…
 …少なくとも…いまは未だ…
 …自分は…禄で無しの夫を追い出した妻であらねばならないのだ…そう…強く意を決し…
 母親は我が子に告げる…
 ―御免なさい…御免なさい…もう少し…もう少しだけ我慢して…いまは未だ…嘘だとは言ってあげられないの…―
 泣きながら母は我が子を抱きしめる…事実上嘘だと告げたと…同然の言葉を告げながら…
 ―…ねぇ…お母様…お父様は…どんな人だったの?―
 その言葉に母は顔を上げ、我が子の顔をジッと見つめる…
 ―誰にも言わないから…教えて…―
 その言葉に母は気付く…この子は悟ったのだと…たったあれだけの事で…父に何か余人には知られてはならない秘密があるのだという事を!
 母は小さく嘆息を吐いて語り始めた…彼女の夫・その子の父親の事を…

                   ―続く―
 ―あとがき―
 嗚呼…また予定狂ってしまいました…少年の回想がなんだか随分と長くなってしまいました…
 えーこの少年が誰なのかは分かる方には分かるでしょう…
 分からない方…ネタバレになるので御免なさい<(_ _)>
 ここでは教える事は出来ません…いま暫くお持ち下さい…
 そして…前回のあとがきでの予告にあった太公望の過去話はどうなった!!
 とお怒りの皆様、お怒りは御尤もだと思いますが、お叱りのメールその他はいま暫くお持ち下さい…せめてこの東海編その一が終わる迄…終わってしまえば全て(今回の太公望の過去話云々について)の謎が解けますので…<(_ _)>
 ―それでは次回予告…ホントは今回書く筈だったネタ…(済みません<(_ _)>)
 東海の空の上で途方に暮れる四不象…その時四不象が見たのは…
 ―以下次回以降…請うご期待!
 ―えーと今回予告編の趣向を変えてみました―それではまたの機会に―RIN―


   

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