「…ねぇ?…『お母さん』…聞きたいことがあるんだけど…」
 階段を下り…台所で皿洗いをする『母』に『彼女』は問う…
 「あら?なぁに?学校の宿題?」
 『彼女』の母は『娘』のただならぬ様子に気付くことなく…皿洗いを続ける…
 「…ううん…そんなことじゃない…もっと大事なことよ」
 そう言う『彼女』の声は低い…
 「…へぇ〜どんな?」
 それでも『母』は気付かない…
 
 ―『母』のその様子に私は強い苛立ちを感じた…


 
―聖母の目覚め―
        ―2―
  


 「…お兄様はどこ!?」
 私は低い声でそう言った…
 ―!!!?
 私のその言葉に『母』は漸く振り返り…
 「……な…に…を…」
 蒼白になり…手に持っていた皿を取り落とした…
 その様子から…動揺の程が伺える…
 …つまりやはりお兄様がこの家に…私の傍にいないのはっ…
 「…惚けないで!私のお兄様はどこっ!?」
 …惚けるなんて許さないっ…
 「…なっ…何を言ってるの!?あなたに兄なんていないわ…いやぁね誰がそんな嘘をっ…ぐっ…」
 『母』のその言葉に…私は怒りを抑えられず…襟首を掴む。
 「惚けないで…そう言った筈よっ!」
 「…あっ…ぐっ…あっ…」
 苦しそうに喘ぐ『母』に私は冷笑を浴びせ…
 「…苦しい?…でもね私の寂しさと…そしてお兄様の苦しみはこんなものじゃなかった筈よっ!」
 『夢』に出てきた『兄』の苦しそうな顔が脳裏を過ぎる…
 「…ねぇ…ちゃんと答えて?お兄様に『何を』したの?私の傍にいてくれている筈のお兄様がどうしていないのっ!?答えてよっ!?」
 …許せない…
 「…ひっ…あっ…」
 「…ああ…これじゃあ答えられないかしら…?…じゃあ放すから答えてね?『お母さん』?」
 そう言って手を放すと…
 「…あっ…ああ…ば…」
 …『母』は恐怖の眼差しで私を見て…
 「…ばけ…もの…化け物だったのね…おまえも…あっ『あれ』と同じっ…」
 「…どういうこと?」
 …化け物?こんな女…(…もう『母』とは呼ばない…この女がしたであろう事は大凡見当がついているから…)になんて言われようと痛くも痒くもないけど…
 「…『あれ』ってなんのこと?もしかしてお兄様のことなんじゃっ!」
 「ヒィッ!…主よどうかお守り下さい…主よ……」
 …ガクガクと震え十字架を握りしめるその女に怒りをますます募らせていた…その時…
 「お待たせしましタv迎えに来ましたヨv愛しいヒトv」
 不意に聞こえたその『声』に…刹那『彼女』の怒りが霧散する。
 …この…『声』…
 「遅くなって済みませんでしたネェvちょっと色々ありましテv遅れてしまいましタv」
 …ああ!…
 『彼女』の頬を涙が伝う。
 「…ノ…ア…?…あなた…なの…?…」
 …解ってる…それでも問わずにはいられない…
 「そうですヨv…いまは千年伯爵と名乗っておりますが…確かに我輩がノアv…あなたの夫でスvエムザラv」
 その言葉に…堪らず振り返り『彼』の胸に飛び込もうとした時…
 …『彼』が信じられないモノを見るような目で…『私』を凝視していることに…気付いた…
 「……どっ…どうしたの…?…ノア…?…」
 …急に不安になる…だって…『彼』が『私』にこんな恐い『表情(かお)』をするなんて…
 「…エム…ザラ…ですよネ…?v…」
 戸惑うような…『彼』の言葉…
 「…そうよ!なんでそんなことを聞くの!?」
 …なんで?そんな目をするの?ノア?…
 …問いたいのは…戸惑っているのは私の方…

                                       ―続く―