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 「……えーと…でも実際どこ……師匠…人使い荒すぎです…ハア…」
 クロスに『使い』を頼まれ、目的地を確認しようとファイルに目を通しての…それがアレンの感想だった…


 
旅路の始まり―2―


 「…取り敢えず…目的地のデータはディスクにいれてと…」
 そう言ってアレンは『方舟』の自分専用の『研究室』で、宙に浮き明滅する幾つものパネルのコンソールを触れて操作する…
 …この『方舟』は『外観』や『初期に創った基礎構造』事態は『ノアの方舟』をモデルにしているが、元々アレンが趣味で自身のプライベート用にと創った『モノ』である為、一部は明らかにオリジナルの『方舟』とは異なり、アレンの『趣味』で構成されており、完全にアレンのプライベートな場所であるこの『専用研究室』などはまるで別物と言っても良いものなのだ…
 …そしていまアレンが操作しているのは『方舟』の『メインシステム』とも繋がる『研究室用』の『サブシステム』だ…
 アレンはこれを使って『目的地』の『詳細』と『旅の順路』を弾き出そうとしていた…
 …ピ…ピ…ピ…
 …コンソールに触れる度…そんな高めの音がする…
 …しかし…何故アレンがそんなことをするのか…『方舟』には空間移動機能がついている…移動だけなら世界中何処にでも即座に行けるのだ…
 …行こうと思えば…直接『目的地』に行ける…
 …しかしアレンは普段はあまり『方舟』の移動機能を使わない…
 …理由は…半分はアレンの趣味であり…それにいくらなんでも『直接』行っては『不自然』だからだ…
 …アレンは自他共に認める『迷子のプロ』だ…にも関わらず…自分の足で移動したがる…それはアレンの『生い立ち』にも関係がある…
 …アレンはノアで同時にイノセンスの適合者…つまりエクソシストになれる力がある…
 …そんなアレンを育てたのは『ノア一族の変わり者』の『マナ』だった…
 …マナは人間(取り分け彼等の笑顔)と旅が好きで、旅芸人をしていた…
 …マナとアレンとロードは『ノア』の中でも『特殊』な『位置』にいる…その為『物心』ついた頃にはもう『ノア』の『家』にいた…
 …だが一応千年伯爵の教育方針と言うか…なんと言うか…そう言った関連で『人間』の『生活』をしている…
 …つまり…子供である、アレンとロードは『学校』に行くべしと言うのが伯爵の考えだった…
 …だが…アレンは『幼稚舎』に入ってすぐに行くのを止めてしまった…
 …理由は…左手のイノセンスだ…子供と言うのは残酷な生き物で…当時伯爵に甘やかされ大切に育てられていたアレンは…意味もなく悪意をぶつけられるなどと言うことがあるなどとは知らず…要は…格好のいじめのターゲットとなったのだ…
 …以来アレンは人見知りが激しく、また同年代の子供を恐れる様になった…
 …そしてアレンは『家』に引き篭もる様になった…世話係ならアクマがいるとはいえ、それではアレンの為にならない…だからアレンを伯爵は『家』から『外』に出した。
 『変わり者』だが『ノアの中でもアレンに親い特殊なノア』で『旅好き』で『世界中』に行く『マナ』にアレンを任せ、一緒に旅をさせることで、アレンの心の傷を癒せればと考えて…
 …そして実際アレンはマナと共に旅をする内に人間を恐れなくなり…また自身も旅を…そしてマナの影響もあり…人間の全てを否定はせず、むしろ好意を持つようになった…(…これには…後にマナに紹介され師となったクロスの影響もある…と言うか絶大だ…)
 …特に人間の笑顔はマナ同様アレンも好きになった…だからアレンもまた『旅芸人』の生活を好み…また『人間の街』にある『様々』な『モノ』をも好んだ為…アレンは余程の遠距離か…余程極端に迷わない限り『方舟』を使っての移動はしない…(…尤も…迷っても余程せっぱ詰まらない限りは使わない…負けず嫌いだから…)

 …だが『今回』の場合は…『クロスの使い』である…
 …のんびり旅を楽しむことは出来ない…

 …クロスはエクソシスト元帥で科学者でアレンの尊敬する師だ…
 …子供の頃…人見知りが多少マシになりかけた頃に…マナが引き合わせてくれた…
 …色んな意味で凄い人で…ある意味マナはショック療法のつもりだったのかもしれない…
 …なにしろアレンのそれまで知っていた『人間』は…自分達と異なる『モノ』を蔑み嫌悪し排除し、そして認めない…口で他人の痛みを考えろと言っておきながら…『異端』と判断したなら…或いは自身の虫のいどころ次第で…平然と他人を傷つける…そんな『人間』ばかりだったのだ…
 …左手を隠せば…気付かれさえしなければ…或いは優しくもして貰えると知ってからは…隠せば虐められないと知って…恐れは多少は薄れた…そもそも身体能力的にはアレンの方が上なのだ…実際的に身体ダメージの心配は殆どいらない…問題は精神的な『モノ』で…集団で囲まれたり…どこか解らないところから石を投げられたり…或いは『彼等』のぞっとする程の冷たい『視線』やそんな時の『彼等』が醸し出す『雰囲気』そのものに対し『恐怖』と『痛み』を感じずにはいられず…『人間』を見て即座に逃げ出すと言う様な事は無くなってからは…マナの影響で『人間』と多少関わる様になり…マナは良かれと思ったのだが…あからさまに異なる『人間』の態度に…不信と嫌悪を抱き始めていた頃…人見知りがマシになっても『人間』を嫌い始める様になっていた、当時のアレンにとって…クロスという『人間』との出会いは『衝撃』以外の何物でも無かった…
 クロスは明らかに他の『人間』と異なっていた…
 …当時まだ幼かったアレンは知らなかったが…クロスは明らかに『例外的な異端』の部類に入る『人間』だった…出会いがこの時期だったからこそ…アレンはクロスが『特異』な『人間』とは認識せず…勿論ある意味では普通では無いときちんと解ってはいたが…全ての『人間』が異なる『モノ』を否定する訳では無いと言うことを知った。
 クロスはそれまでのアレンの『人間』に対する『価値観』を『根底』から覆し、すっかり塗り替えてしまった…
 …勿論この後アレンは…クロスが…単なる変な『人間』所ではないと知る…
 …10人中1人の変わり者所ではなく万人どころか億人単位で捜しても、同クラスの『変わり者』なぞそう見付からぬ位の徹底した…要は『異端者』と言われる類の『人種』だと…
 …だがその頃には…アレンはもっと広く深い意味で『人間』を知っていたので…極端な人間嫌いはぶり返しはしなかった…
 
 …そうして『アレンの世界』を大きく変える切っ掛けを創り、アレンを守り育て、或いは教え導いてくれた…優しく厳しく愛し信じ…そして決して裏切らぬ…『マナ』と『クロス』の二人はアレンの『特別』となった…

 …そしてマナとクロスに育てられたアレンは…クロスを尊敬してはいたが…同時にその恐ろしさもイヤと言うほど…恐らく誰よりも知っていた…

 …その『クロスの使い』である…遅れればどんな事になるか…
 …他の『人間』とは全く違った意味で『理不尽』なのだ…
 …しかも始末に悪い事にアレンはその『理不尽』に屈してしまう…
 …そうクロスの一言によって…
 …曰く「お前は俺の弟子だ」この一言で…

 …アレンは…仕置きもイヤだったが…クロスの信頼を裏切りたく無いと言うのが本心だったから…『確実』にクロスに任された『仕事』をこなそうと思い…短距離間の移動の場合は自分の足で…長距離の場合は…不自然にならぬ程度に『方舟』で移動しようと思い…その為に『目的地』の『詳細』を知りたいと思い、『方舟』の『システム』で『検索(サーチ)』しておこうと思ってのこと…
 …つまり…理由の半分…いや…本当の所は…『仕事』の『確実性』を上げようとしてのことだった…
 
                                            ―続く―