「…『一人』でなら『仲間』を傷つけずに済むかも知れない。そう思ってるのかい?」
 アレンくんの『言葉』に…その『様子』に僕はそう問い掛ける。

 …アレンくん…キミは優しい…だからそんなことを考えるんだろう…
 …確かにそれはキミの『光』だろう…だけど同時にそれは…『弱さ』の現れ…キミの『闇』でもある…
 …紙一重なんだっ…アレンくんっ…!…
 …そしてそれは…決して『仲間』を守ることにはならない。…特にっ…現在(いま)の状況ではっ…!…

 …否むしろっ…!…
 そこまで考えてコムイは一瞬だけだが唇を強く噛む。
 …リナリーは…
 ティムキャンピーの『記録(メモリー)』に有った…『リナリーがアレンをアクマの自爆の爆発から助けた時の事』…その時の事と…そして妹の性格を思うと…
 …確実に…リナリーは傷つく…アレンくんが一人で行けば…
 …そしてあの子は泣くだろうし怒るだろう…再びあった時アレンくんを責めるだろう…(…『種』のことなんかの詳しい事情を説明できないから…余計…)…否…それを知っててもやっぱりリナリーは怒るか……
 …そしてその時またアレンくんは自分を責める…悪循環だ…
 …だがもっと悪いのは…現在(いま)の状況だ…アレンくんは知らないことだが…イェーガー元帥が殺されそして恐らく他の元帥も狙われてる…いまの状況で戦力を分散する訳にはいかないし…ここで彼の希望通り彼を一人で行かせ、もしその間にリナリー達…一緒に行く筈だったメンバーに『何か』あったら…その時の事を考えると…

 …キミのその『考え』は…『行動』は…『逆効果』にしかならないんだっ…!…
 僕はそう考えるとアレンくんをまっすぐに見つめ…
 「…もしそうなら…それは大きな勘違いだよアレンくん」
 厳しい口調でそう言った。 
 

 
―『種』と『ノア』―
              ―10―
 


 「…勘違い…です…か…?…」
 まっすぐにコムイさんが僕を見る。厳しい口調に…僕はたじろぐ…
 「…そうだよ…アレンくんキミは『仲間』を傷付けたくなくてそう言ってる…でも…それだけじゃない…むしろ『心の奥』では『自分自身』が傷つきたくなくて言ってるんだ」
 「……コムイさん…」
 言われた言葉に僕は唖然とする。
 「……アレンくん…キミはリナリーにアクマの自爆の爆発から助けられた時にリナリーを責めた。それは八つ当たりで…キミ自身それが解ってる。そしてその事を気にしていて…『闇』にまた堕ちそうになった…それもあって酷く『不安』なんだろう?また『同じ』ことが起こるかも知れないと…しかも今度は『伯爵』に…『あちら側』にバレている『可能性』がある。アレンくんキミは…」
 そこまで言ってそしてコムイさんは唾を呑み込み…
 「……『種』を植え付けられた人間がどうなるのか?…アレンくん…キミは知ってるんだね…」
 僅かに瞑目した後…重い口調で…痛ましげな目でそう言った…その口調には確信が籠もっていて…
 …そして…
 「…コムイさんは…」
 …知ってるんですか…?…まさか…?…
 泣きそうになる。
 …だって…いくら師匠だって『あんな事』まで話さないだろう…あんなっ…!…
 そう思って拳を強く握る。
 小刻みに身体が…自身が震えてるのが解る。
 そう思っていると…
 「…ブックマンに聞いたよ」
 耳に飛び込んできたその言葉にハッとする。
 
 ―『ブックマン』…
 …その名に…先刻会った…『老人』を思い出す。
 …『針術』と言う不思議な医療術を使った…衒い無く握手の手を伸ばしてくれた老人。

 …あの人が…?…知ってた…?…『種』の事を…?…
 …いつ…?…なんで…?…僕のことも…知って…?…

 ―伸ばされた手…『呪い』の事も別に気にした風でもなくて…『普通』だった…
 …その『事実(こと)』にさっきとは別の理由で涙が出そうになる。

 …それにっ…!…師匠じゃ…なかった…
 …ああ…良かった…
 そう思って…僕はホッとする。

 ホッとしながら零れ掛けた涙を拭おうとした時…
 「その時…ブックマンにアレンくんの事を話したらとても驚いていたよ。『有り得ない』って…」
 コムイさんがとても真剣な目でそう言って…にっこりととても優しく微笑った…

                                       ―続く―