……さっきから…アレンくんの様子がおかしい……
 …これは…もしかしたら不安定なんて生易しい状況じゃないのかも知れない…
 …でも…そう思っても僕じゃ…
 …否…アレンくんの場合…『不安定』になってる『気持ち』が落ち着いて『自分』で『自覚』すればあとは『自分』で『なんとか』できるんだ…なら僕はそのフォローをすればいい…(…それが僕が…クロスに頼まれたことでもあるんだから…)
 「…アレンくん…キミも知ってると思うけど…クロスは凄い自信家なんだ」
 そう思って僕は人差し指を立て、少し戯けてそう言う。
 …まずは『空気』を変えよう…そう思って…
 「……はあ…知ってますが…」
 僕の言葉に…思った通りアレンくんは少し毒気を抜かれたのか…呆気に取られた様子でそう頷く…
 そんな彼に畳み掛けるように…
 「うん。そして同時に合理主義者でもある」
 頷いて更に続け…
 ……尤も…あくまでクロスの自称なんだけどね…
 そう僕は胸中で付け足し…
 
 「…クロスは『自分』の『術』に絶対の自信が有ったんだと思うよ」
 そう告げた。


 
―『種』と『ノア』―
              ―13―
  


 「…クロスは『自分』の『術』に絶対の自信が有ったんだと思うよ」
 コムイさんの『言葉』に僕は目を瞠る。
 …成る程…確かに師匠は自信家だ…
 僕はコムイさんの言葉に胸中で頷く。
 「…『種』が…『宿主』の『心身を蝕みついには死に至らしめる』…そうなるのは『種』の『魔力』に囚われて『闇』に堕ちた時だと言う話だそうだよ、アレンくん…だから…クロスはキミの場合は大丈夫だと判断して話さなかったんじゃないかな…?…」
 コムイさんがさっきとは一転して真っ直ぐに真剣な目で僕を見て言う。
 「…自分の『術』は『完璧』だって言う自信と…そしてなによりアレンくん…以前(まえ)にも言ったけど…クロスはキミのことをキミが思う以上に心配してるしそして信用してる。…だからクロスは…『まず起こるわけがない』と判断したこともあってキミに話さなかったんだ。…別に『種』を抑える上では特に必要じゃないし…否むしろ…キミの負担となりかねない…たとえ予め『大丈夫だ』って言われても『死』の『恐怖』と戦い続けることは…『常に正気を失うかも知れない』と言う『恐怖』と戦いながら『種』を抑え続けてるキミにとって辛く苦しいだけだ。…できれば…キミに余計な負荷を負わせたくないとそう思ったんじゃないのかな…?…」
 そう言ってコムイさんはにっこりと笑う… 
 「…キミのことが心配だったから…そしてなによりキミのことを『そんな事態』になることなんて無いと信用していたからこそ…『言う必要がない、余計なことだ』と…そう思ってクロスは言わなかったんじゃないかな…?…」
 そう言って…

 …そのコムイさんの『言葉』は…言われた『内容(こと)』はとても嬉しいことだった。
 …だって…
 …それはつまり……

 …僕の…ため…?…しかも…僕を信じてたから…?…
 …嗚呼…なんだかまた泣きそうだ…

 ……本当だったら…だけど…
 …だってコムイさんの推測みたいだし…

 …でも…こんな話しをコムイさんがしたのは……
 …きっとそれは僕の為…僕の事を思って……
 それが嬉しくって…だから胸と目蓋が熱くなる。
 …温かい『何か』が込み上げてくる。

 …師匠が自分の『術』に自信があったからじゃないか…と言う話は…凄く納得できる。
 …うん…ありそうだ…

 …でも…僕は喩えさっきのコムイさんの『あんまりにも嬉しすぎる仮定』が単なる『思い過ごし』に過ぎなかったとしても…それでも十分だ…そう思う…
 そう思っていると…

 「…まあ…尤も…そこまで深い考えなんか無くて…クロスのことだからあの自信過剰といい加減でめんどくさがりやな不精者な性格が原因で単にうっかり言い忘れてただけって事もあるんだけどね…」
 再び戯けた様子でコムイさんが笑う…
 …さっきまでのシリアスは……あれ…?…
 コムイさんの目まぐるしく変わるその言動に、僕は一瞬唖然とし…
 「ね?アレンくん?キミはどっちだと思う?僕と賭けしよっか?」
 茶目っ気たっぷりににっこりと満面の笑みでそう言ってウインクした。
                                       ―続く―