―ウロウロウロ…
茶色の髪の青年が少し苛立たしげに邸の廊下を行ったり来たりと所在なげに彷徨く…
「…あ…あの…旦那様…少し落ち着いて…」
「これが落ち着ける訳っ…!…済まない…お前の言う通りだったな…」
初老の執事姿の人物に諫められ青年は反射的に声を荒げ掛けて…そしてすぐに気付き項垂れて謝罪する。
「……いえ…若様のお気持ちは十分過ぎる程…貴男方がお生まれになる時も…大旦那様が同じように…」
「…親父…っと…父上が?…信じ難いな…」
にこにこ笑って『結婚前』の様にワザと『若様』と呼ぶ『家令兼執事(スチュワード・バトラー)』の言葉に青年自身も遂…素の言葉遣いで応じてしまいそうになり慌てて直す…
―そして暫くして…カチャリと扉が開き…半年ほど前に結婚したばかりの妻がメイドに付き添われ部屋から出て来た…
―『誕生(はじまり)』の『瞬間(とき)』―
―1―
「…どっ…どうなんだい?…そのっ…」
青年は妻の傍に駆け寄ると…しどろもどろといった体でそう問う…
そんな夫に妻はにっこりと穏やかに微笑み…
「…三ヶ月ですって…お医者様…」
そう言って…
「…!…本当かい!?」
妻の言葉に夫は目を瞠り…
「…それとねあなた…びっくりしないでよ…」
付け足すように妻が言う…
「…?…なんだい…?…」
その妻の言葉に夫は不思議そうにそう問い…
「……あのね…お医者様が…心音が二つ聴こえるって…」
「…それ…」
妻の言葉に夫は目を見開く…
「…心音が二人分あるって…多分…ううんまず間違いなく双子だろうって…」
「…ふた…ご…?…オレと…キミの子が…?…」
溢れんばかりの笑みを浮かべて言った妻の言葉に…驚きに目を瞠り思わず素の言葉遣いで喋ってしまう…
「…それもね…心音の感じからいって…どうも男の子と女の子の双子みたいなの…男の子も女の子もどっちもだなんて…素敵ねvきっと神様からの祝福だわv」
そう言って微笑った妻はこれ以上ない程幸福そうで…
「すごいやっ!キミは最高だっ!双子だなんて双子だなんて…双子は世界で一番素晴らしいんだっ!」
そう言って夫は妻を抱き締める。
「相変わらずねvもうっ…私妬けちゃうわvあなたったら…」
くすくす笑いながら妻が言った。
―続く―