五代目の話も終わり、イルカは受付所に向かおうとしていた…
 …アカデミー教師のイルカには通常直属の部下というのはいない…
 …任務に出る場合は、中忍である以上部隊長になることもあったが…
 …それでも元々里内常駐待機部所属のアカデミー勤務のイルカには決まった所属小隊も無いため、受付所で指示を受けてから動いていた。

 …だから当然この時もイルカは、他の部下のいる忍達とは別に、数名の待機部所属の忍達と同様受付所に向かうつもりで火影の執務室を出た…
 …しかし…執務室を出て数歩も行かぬ内にイルカは呼び止められた…
 「あの…うみの中忍待って下さい」
 …その言葉に振り向くと、そこには五代目の側近のくノ一の姿があった…


 
虎の穴―6―


 「!ナッ!」
 俺の姿を見た瞬間、俺の名前を口走り掛けたカカシ(バカ)を、俺はクナイを放ち即座に黙らせた。

 「………」

 クナイは…カカシの左頬を覆い隠す口当てを貫きそのまま状態で、カカシを引きずる様に壁に縫い付け深く突き刺さっていた。
 …その様子にアスマが感心した様な、しかし呆れた様な複雑な様子で嘆息を吐きつつ口を開いた…
 「…はあ…なんと言うか…すげえ勢いで刺さってるな…コレは…そのくせカカシは薄皮一枚切っただけで血を流してない…おまえのコトだから狙ってやったんだろ?なあユイ」
 「…それぐらい対したことないだろ…それより…カカシ…おまえ現在(いま)なんで自分が張り付けにされてるか解ってるよな?」
 俺はアスマに対し肯定した後、すぐにカカシの方へと向き直り、静かに、冷たく、殺気を出しながら、問い掛けた…
 …解らないなどと言おうものならば、どうなるかは解っているな!と言外に言いながら…
 「ゴ…ゴメンナサイ!ゴメンナサイ!!ユルシテ!!ツイナ!!久し振りに会えたからオレもう嬉しくて!それでつい…」
 「…つい?」
 「ごめんなさ〜い!!!」
 平謝りするカカシに、俺は更に冷淡な声で続きを促した。


 「…し…信じられない…あのカカシが…」
 紅は心底信じられないといった様子で…誰にともなく呟いた…
 「…はあ…カカシのヤツ…話にゃあ聞いちゃあいたが…ああまでバカになるんだなあ…」
 アスマは呆れを通り越してもはや感心したと言う様な様子でそう言い…

 そのアスマの声に振り向いた紅は何かに気が付いた様な様子で口を開いた…
 「…ねぇ?アスマ、あんたもカカシも、彼と…『ツイナ』と親しいの?」
 「…ああ…親しいっつうか…オレはあいつとは…まあ…身内みたいなモンでな…自然色々知っているんだが……カカシは…最近知った様だな…オレもちょっとあいつから聞いただけだからよく知らねぇんだ…」
 「…そうなの…」
 アスマの言葉に、何処か複雑そうな何かを紅は感じ、思わず一瞬口ごもる…
 …しかし暫しの沈黙の後に意を決し紅が顔を上げ、問い掛けようとしたその時だった…
 「……ねえ…」
 「あいつのコトを知りたいのかい?」
 何処か挑戦的ともとれる色を含んだその声音に、紅が瞬時に振り向くと、其処にはいつの間に移動したのか、つい先程まで執務机の前に座していた筈の、五代目火影・綱手姫が立っていた。
 「…知りたいのなら教えるよ…と言っても…元々そのつもりでおまえ達を残したんだが…まあ…もう少し待ちな…後一人来る予定なんでね…」
 不敵な笑みを浮かべる綱手のその言葉に、しかし紅が反応するより前に反応した者がいた。
 「五代目…『後一人』とはどういうことだ?確かに既にカカシも『俺を』知り、この計画を進める上で、そして里の現状から言っても『俺』が動くことが増えてくるから、協力者が必要だと言うのは解るし、夕日上忍に話すことには俺自身納得もした…だが…『後一人』については俺は話を聞いていない、どういうことだ?」
 片手で暴れるカカシを押さえつけて『ツイナ』は低い声でそう綱手に問い掛ける。
 「…心配いらないよ…おまえも良く知る相手だ…信頼できる…むしろおまえの方があいつを信頼しているんじゃないのかい?」
 しかし綱手はそんなツイナの様子にも構わず、まるで怯える幼子を宥める様に限りない慈愛を含んだ声と微笑みでそう言った。

 ―『信頼している相手』…綱手のその言葉に…『ナルト』は一瞬その思考を停止させ…そして…
 「…えっ…それって…」
 …紅やカカシの前だと言うことも忘れ…その瞬間『ナルト』は『暗部のツイナ』から『素のナルト』に戻っていた…
 …その瞬間ツイナの瞳が群青から深く澄んだ碧に変わる…
 (…ばあちゃん…まさか…)
 「!綱手様まさかっ!!」
 (…なぜだか遠くでカカシが叫んだ様な気がした…変だな…カカシはすぐそこにいるのに…)
 「!オイ!ユイ!おまえ!」
 (…アスマ?なに慌てて…それになんでおまえらの声…そんな遠くから聞こえるんだ…)
 「綱手様連れてまいりました…あれ?ユイ君、その目の色どうしたんですか?」
 「あの五代目まだ何かお話があると伺ったのですが…」
 ノックをして入ってきたシズネねえちゃんとイルカ先生の姿を目にした途端…俺は切れた…
 「…なんで…なんでだ!ばあちゃん!なんで此処にイルカッ…」
 …切れて思わず素の状態で話し掛け…流石にそれはマズイと頭を振る…
 「…クッ…うみの中忍が…何故…俺は許可を出していない」
 …誤魔化せたかどうかは解らない…
 …俺はそれ程動揺していた…
 「!ユイ!否!ナリ!まずい!落ち着け!おまえ『力』の制御が乱れてるぞっ!!」
 そう言ってアスマに両腕を強く握られて気付く…
 …俺は即座に深呼吸し…精神(こころ)を落ち着け様とし…
 …その俺の背中を優しくアスマが撫でてくれる…
 「…落ち着いた様だね…」
 「…ばあちゃん…」
 「…勝手なことをしたのは解ってるよ…でもねこれからの事を考えれば、おまえの大切な相手にくらいはおまえ自身が話した方がいい、おまえが『ツイナ』の仮面を外すと決めたのならそれは尚更だ…」
 …ばあちゃんのその言葉には言外に、『奥』を継ぐと言ったのはおまえの筈だという思いが感じ取ることが出来て…
 「…俺は…別に暗部をやってることまで話すつもりはなかったんだ…」
 …確かに正式に継ぐ以上…そして上層部が騒ぎ始めている『ある問題』のコトもあって…里では近々『俺』のことである『公式発表』をすることになっていた…
 …だから…俺だって…その前にせめてイルカ先生には『そのこと』だけは話そうと思ってた…でも…
 「…恐がってばかりじゃダメダよ…『成人(ナリト)』これは火影命令だ!『面』を外しな!」
 …でも俺は恐くて確かになかなか話せなかった…だから焦れて綱手ばあちゃんがこんな強硬手段に出たんだろうってことは解る…ばあちゃんが何を言いたいのかも…ホントは…解ってた…でも…でも…俺はやっぱりコワカッタンダ…
 
 「…御意…」
 そう小さく呟いて、小さく深呼吸をし、俺は面を外しフードを外す… 
 …イルカ先生と紅先生が息を呑み、目を見張るのが分かる…
 …二人の動揺が…
 「…まったく…失敗したよ…ばあちゃんが、『この後すぐに下忍任務があるんだから、今日は髪を染めるんじゃないよ!』って言ったあの時に…気付くべきだったんだ…」
 「…おかしいとは思っていたんだろ?気付けなかったんじゃない!気付かなかったんだよ!おまえが…おまえの意志でね…忍としちゃ本当は褒められたモンじゃない…だが…良い事じゃないか…だいぶ人間らしい感情が成長してきたってことだ…」
 …イイコトだよとばあちゃんが微笑う…
 「…ばあちゃん…」
 「現在(いま)のおまえは本当に人間としても大分成長したそうだろ?そろそろ良い筈だぜ?」
 …とっくにおまえは一人前だよとアスマが笑う…
 「…アスマ…兄…」
 「…久し振りだな…おまえにそう呼ばれるの…」
 「五代目火影の権限で許可するよ、おまえの本当の名前をその二人に教える事をね」
 

 …目の前で何が起こっているのか…その遣り取りの意味が正直まるで解っていなかった…

 …目の前にいる小さな暗部は…五代目を『ばあちゃん』と呼んでいた…
 …木ノ葉の里…否世界広しといえど五代目火影を『ばあちゃん』呼ばわりして笑って許される子供…
 …そんな子供は、里中誰に聞いても一人しかいないと言うだろう…

 …里でも珍しい金色の髪と蒼い瞳を持つ…
 …その小さな体に…『誰』より重い宿命を背負わされた…禁忌の子…
 …殆ど大多数の里人に忌まわれ疎まれる…
 …けれど自分にとっては大切な愛しい子…


 ―…外された暗部面の下から出てきたのは良く知った…けれど同時に全然知らない少年の顔だった…

 ―…光を受けて輝く黄金色の髪…強い意志を奥に秘め、どこまでもまっすぐに前を見据える、誰よりも澄んだ、まるで世界そのものを表すような深い蒼碧の瞳…―


 …ナルト…

                                   ―続く―
 ―あとがき―
 遅くなってしまい申し訳ありません、RINです<(_ _)>
 年内更新予定の筈が結局年を越してしまいました、浜口篤子様お待たせしてしまい、申し訳ありません<(_ _)>
 …今回…長くなってしまいました…
 …これからがむしろ本筋と言った感じですので、これからもこんな感じになる一話があると思います…そしてその反面…反動の様に物凄く短い物もあるかも知れませんが…
 …どうぞ見捨てず気長に読んでやって下さい…お願い致します…<(_ _)>

 ―まだメールでの発送は控えさせて頂いております<(_ _)>

                        ―それではまたの機会に―RIN―